川崎市水道局
(いじめ自殺)事件 東京高裁
平成15年3月25日判決
使用者の債務不履行責任
(安全配慮義務違反)
が問われた裁判例
- 事案の概要
- Xらの長男であるAがY市の水道局工業用水課に勤務中、同課の課長、係長、主査のいじめ、嫌がらせなどにより精神的に追い詰められて自殺したとして、XらがY市に対し国家賠償法又は民法 715 条に基づき損害賠償を、課長、係長、主査に対し、民法709 条、 719 条に基づき損害賠償を求めた。
- 結果
- 第一審は請求の一部認容、Y市はXらそれぞれに対し逸失利益等約 1,173 万円。
XとY市がそれぞれ控訴したが、各控訴棄却。
- 判旨の概要
- 課長ら3名が、Aが女性経験がないことについて猥雑な発言やAの容姿について嘲笑をしたこと、主査が果物ナイフを A に示し、振り回すようにしながら「今日こそは切ってやる。」などと脅すようなことを言ったことなどの行為を執拗に繰り返し行った。言動の中心は主査であるが、課長、係長も主査が嘲笑したときには、大声で笑って同調していたものであるから、これにより、Aが精神的、肉体的に苦痛を被ったことは推測しうるものである。
以上のような言動、経過などに照らすと、課長ら 3 名の上記言動は、Aに対するいじめというべきである。また、いじめを受けたことにより心因反応を起こし、自殺したものと推認され、その間には事実上の相当因果関係があると認めるのが相当である。
Y市には、市職員の職務行為から生ずる危険だけでなく、ほかの職員からもたらされる生命、身体等に対する危険についても、具体的状況下で、加害行為を防止し、被害職員の安全を確保して職場における事故を防止すべき注意義務がある(以下「安全配慮義務」という。)があると解される。精神疾患に罹患した者が自殺することはままあることであり、Aの訴えを聞いた上司が適正な措置を講じていればAが職場復帰し、自殺に至らなかったと推認できるから、Y市の安全配慮義務違反とAの自殺には相当因果関係が認めるのが相当であり、Y市は、安全配慮義務違反により、国家賠償法上の責任を負うというべきである。
パワーハラスメントの裁判事例
使用者の不法行為(一般の不法行為)
責任が問われた裁判例
東京地方裁判所 | バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件 東京地裁 平成7年12月4日判決 |
東京高等裁判所 | 松蔭学園事件 東京高裁 平成5年11月12日判決 |
東京地方裁判所 | ティーエムピーワールドワイド事件 東京地裁 平成22年9月14日判決 |
最高裁判所 | 関西電力事件 最高裁判所第三小法廷 平成7年9月5日判決 |
使用者の不法行為(特殊の不法行為:
使用者責任)責任が問われた裁判例
名古屋地方裁判所 | U福祉会事件 名古屋地裁 平成17年4月27日判決 |
横浜地方裁判所 | ダイエー事件 横浜地裁 平成2年5月29日判決 |
使用者の債務不履行責任(安全配慮義務違反)が問われた裁判例
東京高等裁判所 | 川崎市水道局(いじめ自殺)事件 東京高裁 平成15年3月25日判決 |
福岡高等裁判所 | 長崎・海上自衛隊員自殺事件 福岡高裁 平成20年8月25日判決 |
埼玉地方裁判所 | 誠昇会北本共済病院事件 埼玉地裁 平成16年9月24日判決 |
高松高等裁判所 | 前田建設事件 高松高裁 平成21年4月23日判決 |