職場のパワーハラスメントを防止して快適な職場環境を

仕事で良い結果を生み出すためには良好な人間関係が重要です。ところが最近、職場の人間関係のトラブルの1つとしてパワーハラスメントが大きな問題となってきています。パワーハラスメントが起きると被害者や周囲の人の士気が低下し、能力発揮に支障が出るばかりか、心の健康を害する場合があります。企業にとっては職場環境を悪くするだけでなく、問題解決までに多大な時間と労力がかかり、さらには法的責任までもが問われる場合があります。公的機関に寄せられるパワーハラスメントの相談件数は、年々急速に増えてきています。企業へのアンケート調査などでも、パワーハラスメントの発生、増加が確認されおり、パワーハラスメント防止への適切な対策が必要です。

今、なぜパワーハラスメントが
問題となっているのでしょうか?

部下への厳しい指導や人間関係のトラブルは従来から職場にありましたが、パワーハラスメントとして顕在化してきたのには大きく以下の3つの変化が背景にあると考えられます。

Point

経営環境・職場環境の変化により、管理職に余裕がなくなってきている

経済のグローバル化による競争の激化から業績を追い求める風潮が強まると同時に、一人一人の業務量が過多となり、職場に余裕がなくなりがちな状況になっています。管理職自身もプレインクマネージャーとして成果達成に追われ、部下一人ひとりに適した指導ができにくい状況になってきています。

また、現在の職場には正社員だけではなく、契約社員、パート社員、派遣社員等様々な形態の働き手が混在しています。また管理職より年齢の高い部下、専門性が高く情報量の多い部下もいます。こういった職場における多様性(ダイバーシティ)に対して上司として対応していく必要が生じています。

Point

従業員側が変化してきている

従来の企業の雇用システムは年功序列型で、定年までひとつの会社で勤め上げるのが望ましいとする考え方が一般的でした。そのため、従業員としては上司から厳しい指導をされても、自分の将来を考え、あえて問題にすることはあまりありませんでしたが、労働市場の流動化によって、転職に対する抵抗感が弱まり、従来より自分の意見や苦情を言いやすい状況になっています。

他方、最近では、地域や家庭、教育現場でも厳しい指導をすることは少なくなり、ストレス耐性が弱くなっている若者が多いという指摘もあります。

また、価値観の多様化に伴い、従来の「俺についてこい」型の指導には馴染めない人も増えてきました。

Point

ハラスメントへの社会的認知度が高まり、苦情を申し立てやすくなった

男女雇用機会均等法でセクシュアルハラスメント防止について事業主の措置義務が規定されたことで、職場におけるセクシュアルハラスメントヘの対応が進んできたことに伴い、企業内におけるその他のハラスメントに対する認識が高まりつつあり、パワーハラスメントに対しても苦情を申し立てやすい状況になっています。

2022年4月1日からは、
パワーハラスメント対策が



事業主の義務になりました

職場でのいじめやパワーハラスメントが近年の社会問題として顕在化していることを受け、2019年に労働施策総合推進法が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。中小企業に対する職場のパワーハラスメント防止措置は、2022年4月1日から義務化されました。

職場における

「パワーハラスメント」の定義

職場で行われる、①~③の要素全てを満たす行為をいいます。

①優越的な関係を背景とした言動 

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの 

③労働者の就業環境が害されるもの

※客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲でおこなわれる適正な業務指示や指導は該当しません。

職場におけるパワーハラスメントの代表的
な言動の類型、該当すると考えられる例

①身体的な攻撃
暴行・傷害殴打
足蹴りを行う・相手に物を投げつける
②精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
人格を否定するような言動を行う・相手の性的指向、性自認に関する侮辱的な言動を含む。業務の遂行に必要な以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。
③人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。
④過大な要求
業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。
⑤過小な要求
業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない。
⑥ 個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。

※個別の事案について、パワハラに該当するのかの判断に際しては、当該言動の目的、言動が行われた経緯や状況等、様々な要素を総合的に考慮することが必要です。また、相談窓口の担当者等が相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなど、その認識にも配慮しながら、相談者と行為者の双方から丁寧に事実確認を行うことも重要です。

職場におけるパワーハラスメントを防止
するために講ずべき措置

事業主が必ず講じなければならない具体的な措置の内容は以下のとおりです。

事業主の方針等の明確化および周知・啓発
職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
事実関係を迅速かつ正確に確認すること
速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと
再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む)
併せて講ずべき措置
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること
相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
※労働者が事業主に相談したこと等を理由として、事業主が解雇その他の不利益な取り扱いを行うことは、労働施策総合推進法において禁止されています。

職場におけるパワーハラスメント防止等のための望ましい取り組み

①パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、単独ではなく複合的に生じることも想定し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備すること
②職場におけるパワーハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取り組みを行うこと(コミュニケーションの活性化のための研修や適正な業務目標の設定等)
③職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を行う際に、自ら雇用する労働者以外に、以下の対象者に対しても同様の方針を併せて示すこと
・他の事業主が雇用する労働者 ・就職活動中の学生等の求職者
・労働者以外の者(個人事業主などのフリーランス、インターンシップを行う者、教育実習生等)
④カスタマーハラスメントに関し以下の取り組みを行うこと
・相談体制の整備
・被害者への配慮のための取り組み
(メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)
・被害防止のための取り組み(マニュアルの作成や研修の実施等)

パワーハラスメントの裁判事例

使用者の不法行為(一般の不法行為)
責任が問われた裁判例

東京地方裁判所バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件 
東京地裁 平成7年12月4日判決
東京高等裁判所松蔭学園事件 
東京高裁 平成5年11月12日判決
東京地方裁判所ティーエムピーワールドワイド事件 
東京地裁 平成22年9月14日判決
最高裁判所関西電力事件 
最高裁判所第三小法廷 平成7年9月5日判決

使用者の不法行為(特殊の不法行為:
使用者責任)責任が問われた裁判例

名古屋地方裁判所U福祉会事件 
名古屋地裁 平成17年4月27日判決

        
横浜地方裁判所ダイエー事件 
横浜地裁 平成2年5月29日判決
    

使用者の債務不履行責任(安全配慮義務違反)が問われた裁判例

東京高等裁判所川崎市水道局(いじめ自殺)事件     
東京高裁 平成15年3月25日判決
福岡高等裁判所長崎・海上自衛隊員自殺事件 
福岡高裁 平成20年8月25日判決
埼玉地方裁判所誠昇会北本共済病院事件 
埼玉地裁 平成16年9月24日判決
高松高等裁判所前田建設事件 高松高裁 
平成21年4月23日判決

当事者の責任が問われた裁判例

東京高等裁判所
三井住友海上火災保険上司事件
東京高裁 平成17年4月20日判決
     
大阪高等裁判所
奈良医大アカデミックハラスメント事件 
大阪高裁 平成14年1月29日判決

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