誠昇会北本共済病院事件
(さいたま地判 平16.9.24)

使用者の債務不履行責任
(安全配慮義務違反)
が問われた裁判例

事案の概要
勤務先Yの従業員であったAが自殺したのは、上司から、社会通念上正当と認められる職務上の業務命令の限界を超えた著しく超えた過剰なノルマ達成の強要や執拗な叱責をうけたことによるなどとして、Aの相続人であるXらがYに対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償を、予備的に債務不履行(安全配慮義務)に基づく損害賠償を求めた。
結果
第一審は請求の一部認容。Xらに約 2,835 万円。X,Yらがいずれも控訴したが、控訴審はXの控訴を棄却、Yの控訴を認容。
判旨の概要
(第一審)
Aは自らの営業成績を仮装するための不正経理について、上司から叱責を受け、自殺の直前にうつ病に罹患していたと認められることから、不正経理についての上司によるAに対する叱責、注意がAの死亡という結果を生じたと見るのが相当。上司の行った叱責等は不法行為として違法であり、Yに安全配慮義務違反も認められる。

Aが心理的負荷から精神障害等を発症し自殺に至ることもあるということを予見することもできたというべきである。うつ病に罹患していることやその兆候を認識できなかったとしても、自殺に至ることは予見可能であったというべきであるし、適切な調査をしていれば、更にその認識可能性はあったというべきである。

(控訴審)
Yの営業所は独立採算を基本としており、過去の実績を踏まえて翌年度の目標を立てて事業計画を作成していたものであるから、上司からの過剰なノルマ達成の強要があったと認めることはできない。

上司が不正経理の是正を指示したにもかかわらず、1年以上是正がされなかったことから上司がAに対してある程度厳しい改善指導をすることは正当な業務の範囲内にあり、Aの上司らがAに対して行った指導や叱責は、社会通念上許容される範囲を超えたノルマ強要や執拗な叱責と認められないことから不法行為にあたらない。

また、Xらは、メンタルヘルス対策の欠如等を安全配慮義務違反を基礎付ける事実として主張したが、Yは平成 16 年 5 月に職場のメンタルヘルス等についての管理者研修を実施しており、 A を含む管理者が受講している事からYにおいてメンタルヘルス対策が何ら執られていないということはできないことから、Yの安全配慮義務違反も認められない。業務改善の指導については、必ずしも達成が容易な目標ではなかったものの、不可能を強いるものとはいえないものであり、改善を求めることにより、Aが強度の心理的負荷を受け、精神的疾患を発症するなどして自殺に至るということについて、Aの上司らに予見可能性はなかったというほかない。

パワーハラスメントの裁判事例

使用者の不法行為(一般の不法行為)
責任が問われた裁判例

東京地方裁判所バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件 
東京地裁 平成7年12月4日判決
東京高等裁判所松蔭学園事件 
東京高裁 平成5年11月12日判決
東京地方裁判所ティーエムピーワールドワイド事件 
東京地裁 平成22年9月14日判決
最高裁判所関西電力事件 
最高裁判所第三小法廷 平成7年9月5日判決

使用者の不法行為(特殊の不法行為:
使用者責任)責任が問われた裁判例

名古屋地方裁判所U福祉会事件 
名古屋地裁 平成17年4月27日判決

        
横浜地方裁判所ダイエー事件 
横浜地裁 平成2年5月29日判決
    

使用者の債務不履行責任(安全配慮義務違反)が問われた裁判例

東京高等裁判所川崎市水道局(いじめ自殺)事件     
東京高裁 平成15年3月25日判決
福岡高等裁判所長崎・海上自衛隊員自殺事件 
福岡高裁 平成20年8月25日判決
埼玉地方裁判所誠昇会北本共済病院事件 
埼玉地裁 平成16年9月24日判決
高松高等裁判所前田建設事件 高松高裁 
平成21年4月23日判決

当事者の責任が問われた裁判例

東京高等裁判所
三井住友海上火災保険上司事件
東京高裁 平成17年4月20日判決
     
大阪高等裁判所
奈良医大アカデミックハラスメント事件 
大阪高裁 平成14年1月29日判決

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