バンク・オブ・アメリカ・
イリノイ事件
(東京地判 H7.12.4)
使用者の不法行為(一般の不法行為)
責任が問われた裁判例
- 事案の概要
- 勤務先Yの管理職(課長)だったXが、YがXに対して行った降格(ライン上の指揮監督権を有さないオペレーションズテクニシャンに)とその後の配転(総務課の受付に)という一連の嫌がらせ行為は、Xら中高年管理職を退職に追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして、Yに対し慰謝料の支払いを求めた。
- 結果
- 請求の一部認容。慰謝料 100 万円。
- 判旨の概要
- まずXのオペレーションズテクニシャンへの降格について、Y在日支店は、ずっと赤字基調にあり、厳しい経営環境の下、オペレーション部門の合理化、貸付部門や外為部門の強化等の改革が急務となっており、管理職らに対し、新経営方針への理解・協力を求めたが、Xを含む多数の管理職らが積極的に協力しなかったため、新経営方針に協力する者を昇格させる一方、Xを含む多数の管理職を降格させたものである。
この降格によりXが受けた精神的衝撃、失望感は決して浅くはなかったと推認されるが、Yにおいて、新経営方針の推進・徹底が急務とされていたことから、これに積極的に協力しない管理職を降格する業務上・組織上の高度の必要性があったと認められること、Xと同様に降格発令をされた多数の管理職らは、いずれも降格に異議を唱えておらず、Yのとった措置をやむを得ないものと受け止めていたと推認されること等の事実からすれば、Xの降格をもって、Yに委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできない。
その後の総務課(受付)の配転については、総務課の受付は、それまで 20 代前半の女性の契約社員が担当していた業務であり、外国書簡の受発送、書類の各課への配送等の単純労務と来客の取次を担当し、業務受付とはいえ、Xの旧知の外部者の来訪も少なくない職場であって、勤続 33 年に及び、課長まで経験したXにふさわしい職務であるとは到底いえず、Xが著しく名誉・自尊心を傷つけられたであろうことは推測に難くない。
Xに対する総務課(受付)配転は、Xの人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、Yに許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成するというべきである。
パワーハラスメントの裁判事例
使用者の不法行為(一般の不法行為)
責任が問われた裁判例
東京地方裁判所 | バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件 東京地裁 平成7年12月4日判決 |
東京高等裁判所 | 松蔭学園事件 東京高裁 平成5年11月12日判決 |
東京地方裁判所 | ティーエムピーワールドワイド事件 東京地裁 平成22年9月14日判決 |
最高裁判所 | 関西電力事件 最高裁判所第三小法廷 平成7年9月5日判決 |
使用者の不法行為(特殊の不法行為:
使用者責任)責任が問われた裁判例
名古屋地方裁判所 | U福祉会事件 名古屋地裁 平成17年4月27日判決 |
横浜地方裁判所 | ダイエー事件 横浜地裁 平成2年5月29日判決 |
使用者の債務不履行責任(安全配慮義務違反)が問われた裁判例
東京高等裁判所 | 川崎市水道局(いじめ自殺)事件 東京高裁 平成15年3月25日判決 |
福岡高等裁判所 | 長崎・海上自衛隊員自殺事件 福岡高裁 平成20年8月25日判決 |
埼玉地方裁判所 | 誠昇会北本共済病院事件 埼玉地裁 平成16年9月24日判決 |
高松高等裁判所 | 前田建設事件 高松高裁 平成21年4月23日判決 |